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「エリザベート」:死と踊れ [演劇]

 「人は誰も死と戯れる。しかし彼女以上に死と上手く踊った者はいない」
 すでに日本でも宝塚版、東宝版が大ヒットしたミュージカル「エリザベート」、そのオリジナルであるウィーン版が来日し、大阪梅田芸術劇場にて上演されている。
 この「エリザベート」を見た人は誰もが息を呑むだろう。舞台に突き出した、上下する巨大な梁。その上を踊りながら渡っていく役者。回り舞台は回転を止めることなく、上にさらに船や馬車や円形の執務室やゴーカートを乗せる。奈落からせり上がる床は絶え間なく上下に動きながら、セットの一部と化す。息もつかせぬ場面展開、同時にひたすら歌と踊りが続く。その歌もまた、ロックでもありクラシカルでもある。ダンスも亡霊達のロボットダンスから、優雅な社交ダンスまでを、同じ役者が繰り広げていく自由闊達さ。
 様々な要素が交錯する舞台は一糸乱れぬ呼吸で互いに入れ違い、一歩間違えば大崩壊が起こるぎりぎりのところで、絢爛豪華に展開していく。
 ストーリーは美貌の皇妃エリザベートと彼女を誘惑する死神トート、責務と厳格な母親に縛られつつも彼女を深く愛する皇帝ヨーゼフを中心に展開する。古典的構図でありながら古くさくならないのは、この話が自由をテーマにしているからだ。田舎で素朴に育った娘エリザベートは古い皇室に縛られた後も、死の誘惑を退けながら、戦いによって自由を獲得する。しかし自由を得てでは何をするのか、彼女は答えを持ってはいなかった。ゆえに放浪を繰り返し、最後には暗殺者の刃に倒れ、死と踊る。
 それは勝利なのか敗北なのか。また、誰にとっての。舞台は問いを投げかけて終わる。
 死は究極の自由ともいえる。けれど人は自由を求めるが、死は厭う。何が違うのか。
 人は誰も死と戯れる。生きる上で死の誘惑を感じない人間はいない。そこで踏みとどまる理由は何なのか。限りなき普遍的な問い、生の価値を、このミュージカルは問い続ける。

(800字批評シリーズ:798字)

公式サイト:http://www.umegei.com/erz/index.html


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