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「RENT」:芸術家にもし明日がなかったら? [映画]

 予告編の「Seasons of Love」に一発でやられ、是非見に行きたいと思っていたのですが、公開館が少なくて大阪の梅田まで出掛けてようやく見る事が出来ました。ちなみにその前には某助教授さんのオープンオフィス(研究室が自由解放の時間)に自分の研究計画見てもらおうと思って行ったものの留守で、ドアの前で本を読みながら1時間半ほど張り込んだ(そして空振りに終わった)後でした。
 舞台は90年代前半のニューヨーク、若き、そしてまだ売れていない、というか自分の作品がどういうものかもまだ分かっていない芸術家の卵たちが、肩を寄せ合って青春を過ごしていたころです。彼らの中には高学歴から家出娘までそろっていて、ドラァグクイーンからゲイからストリッパーからロックミュージシャン、映画監督志望までいました。
 そしてエイズが蔓延していました。まだ治療薬が不充分で、ばたばた人が死んでいった頃です。

 芸術家は夢を喰って生きています。いつか売れることを、人々に認められることを、あるいは自分の納得いく作品が作れることを、栄光を夢見て生きています。そして彼らの中には確かにその可能性が眠っているのです。実際にそれを掴む事が出来るのはほんの一握りだとしても。・・・だけど、そんな彼らに明日がなかったら? 彼らがエイズに冒されていたとしたら? 芸術家未満の若者たちはどうやって生きていくのでしょう。
 答えから先に言えば、何も変わらないのです。彼らは笑い、友情を育み、無謀なことをして、怠惰に時を空費しながら夢を食べて生きていくのです。だってそもそも青春とは「俺達に明日はない」ものなのですから。
 それでも現実は過酷です。明日はないと思っていることと、実際に目の前で仲間が死んでいくことは違います。またその病に自分も冒されているということは。この劇中で、ある男女の出会いに関して、エイズを患っている男性が、知り合った相手の女性もエイズであることを知りますが、私はその時彼が何を思ったのか、つまり悲しんだのか安心したのか、理解することが出来ませんでした。そして多分、理解する類のことではないんだろうなと思いました。


 どうしても今の自分と重ねてしまうのですが、研究者というのも芸術家なみに霞を喰って生きている職業です。私は研究をメシの糧にしたいとは今のところ思っていないのですが、2年後に完全に満足のいく修士論文を書き上げたいとは願っています。そのための時間は今の時点でもうすでに、矢のように過ぎていっています。「Seasons of Love」の「1年は525,600分、あなたは何を目安に計りますか?」はその点でもとても心に響きました。
 毎日急かされながら生きていて、でもそうやって精力を傾けているjobが世の中のためになるとはほとんど思っておらず、世の中から評価されるとも別に思っていない。そもそも自分は何を研究したいのかすら、問い続ける毎日です。まったくもって可能性だけを霞みのように掴みながら生きている日々。論文を書き上げても、私は多分その時点で大学院を去ります。私の人生の履歴にそれは多分、何の役にも立ちません。・・・だから何?
 毎日はそれでも楽しくて、充実していて、生の喜びに満ちていて、霞のような可能性を掴もうとしてあがいて、掴んだと思ったらその瞬間に消え去ってまた探すとしても、それでも楽しいのです。そんな人生に価値はないのでしょうか。


 この映画はミュージカル映画です。「オペラ座の怪人」ほどではないとはいえ、かなり全編にわたって歌が流れます。そのあたりがどうしても苦手な方もいると思うので、そこは注意が必要です。
 彼らが背負っている現実に比べて脳天気と思えるほどにパワーに満ちていて、だからといって現実から目を背けているわけではなく、むしろあらゆるものに向かって発散される無謀に巨大なエナジーを感じる歌の数々。それはきっと楽しいという言葉で片づけてはいけないのですが、それでも楽しいです。「戦争の反対は平和ではなく創造」と脳天気に言い切ってしまう傲慢さ。まったく若者というものは・・・。
 泣ける映画でもありますが、それは悲しくて泣くのとはちょっと違う気がします。たしかに悲劇の要素はいくらでもあるのですが、この映画はもっと心の奥底を揺さぶる何かがあるように思います。おそらく多分、「生」の持つ力でしょう。それは彼らが不治の病におかされて明日をも知れない身であっても、だからこそ輝くのです。
 可能性が無限にあるということは、実はまだ「何者でもない」ということでもあります。これはすでに何かを手にした(その代わりに選択肢=可能性を捨てた)人にとっては眩しく映りますが、そう思う事自体が実は残酷な事でもあります。
 若者でいることはいつの時代も苦しく、無謀で、バカでないとやっていられないことなのです。彼らは明日をも知れぬ身で、未だ何者でもない、何を手にしてもいない、空っぽな存在なのです。
 だけどそれでも、楽しいのです。人生は美しく愛に満ちていて、この映画は楽しいのです。

 no day but today (歌詞より)

公式サイト

Rent [Original Motion Picture Soundtrack]

Rent [Original Motion Picture Soundtrack]

  • アーティスト: Paul Bushnell, Suzie Katayama, Jonathan Larson, Dorian Crozer, Greg Suran, Tim Pierce, Greg Curtis, Jamie Muhoberac
  • 出版社/メーカー: Warner Bros.
  • 発売日: 2005/09/27
  • メディア: CD

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