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「バッド・ニュース☆グッド・タイミング」:絶え間なくわき腹を [演劇]

 三谷幸喜作・演出で2001年に上演された、この舞台。例によってDVDで観ました。
 私の実家の自室は、机-ベッド-テレビという配置になっており、TVでDVDを見るときはベッドに寝転がりながらというのがベストポジションなのですが、微妙な引きつり笑いの連続で持病の喘息の発作を起こしかけ、腹筋と背筋を使いまくった挙句、次の日には腰の右側が寝違え状態に。
 ・・・チケット入手のために行列し、遠くの劇場までわざわざ出かけて人ごみに揉まれという生観劇ならともかく、自宅で優雅にDVD鑑賞という環境で、なぜにこのような体力勝負をせねばならぬのか。

 三谷さんの笑いというものは、わき腹を遠慮がちに絶え間なくひたすらくすぐられ続けるような、なんとも微妙なイヤラシサがあります。おまけに、まれにどうしようもなくツボに入ってしまうあたりが、さらにタチが悪い。
 もっともおそらく劇場で観ていたら、もっとダイレクトに爆笑の連続なんだろうなという気がします。暗闇の中で大口開けて笑いながら客席で沈没している自分の姿が容易に想像できますが、まあそのあたりは生観劇とDVDとの差で。そういう違いも嫌いじゃないんですけどね。
 ただ、三谷作品の中でも、とにかくひたすら笑ってもらうことを目的にしたこのお芝居を、ベッドに寝転がりながら観たのはさすがに失敗だったような気がします・・・。


 お話の筋はこうです。結婚披露パーティー当日、幸せの絶頂にある二人、ただしちょっとした問題が。彼らの父親は昔コンビを組んでいた漫才師だったのですが、10年前に喧嘩別れしてそのまま絶縁状態なのです。でもやはり親にも祝福して欲しいと、なんとか二人を説得しようとする新郎新婦。というか、結婚式当日にそんなギリギリ勝負はやめましょう。案の定、ホテルのラウンジという狭い空間を舞台に、すれ違いと行き違いと誤解を繰り返し、事態はひたすらにもつれてこんがらがり悪化の一方を。「ますます面白くなってきた」・・・第三者的にはな!
 あとこの舞台には、本編の前に予告編もついているのですが(もちろん俳優さんたちがちゃんと寸劇を演じる)。なんというか本編の直前に予告編をやる意図がよくわからないのですが。・・・そういうわけの分からなさは大好きです。

 新郎新婦の父親たちにして元漫才師コンビを、伊東四朗さんと角野卓造さんという、一癖もふた癖もある大ベテランが演じます。役的にも俳優としての格としても、センターに出てこられるこのお二人が、微妙に半歩下がった難しい立ち居地で、絶妙な存在感とプレッシャーを与えてくれる様がすばらしい。
 三谷作品につきものの、巻き込まれ型ひたすらに右往左往な主人公が生瀬勝久さん。取り乱して必死の形相をたっぷり堪能できる、実力派にしてしっかりした個性を持つ俳優さんです。芯の弱い人が弱い人間を演じてもあんまり面白くないというか、なまじ中途半端に踏みとどまる強さがあるがゆえに、トラブルの渦中から離れられない人間が寸刻みでやつれていく様こそ、三谷作品の醍醐味かと思うのですが、まさに生瀬さんは理想的です。そんな彼の結婚相手は、天然ボケ入った振り回されるより振り回す側な、でも笑顔が可愛いからすべて許しちゃう的お嬢さん。沢口靖子さんが演じます。
 脇を固めるのは、朗らかで華やかなお母さん役、ミュージカル女優の久野綾希子さん。万能ホテルマンキャラの個性派俳優の八嶋智人さん、対する振り回される普通の人な結婚コーディネイターが伊藤正之さん。すべて分かっているし何にでも対応できる万能人間と、なんにも分かっていないし目の前の現状に対応することも出来ない普通の人。役柄的には正反対ですが、どっちがおいしい役かというと・・・どっちも良いなあと思えてしまうところがまた素敵。


 とりあえず「ロミオとジュリエット」以来の古典的状況があって、あとはひたすら場当たり的に展開していくという構成です。伏線に凝る三谷作品としては、めずらしくあまり計算を感じない作りですが、こういうのも書けるんだとむしろ感心してしまいます。
 「あとには何も残らない作品を追及した」というヒネた工夫の痕跡は、主に終盤に見られます。山場を作ることも出来るのに、自らそれを壊そう壊そうとしていく、でも地力があるだけに自然に盛り上がりができるのですが、それもまた壊そうと必死になっている様が・・・笑えます。

 この作品に関しては本当に物語の筋を追うことに意味があるとは思えない。けれどもひたすらにネタを仕込み、連発し、舞台は変わらないけどその中の人物配置には凝りまくり、これでもかこれでもかと繰り出してくる「わき腹くすぐり攻撃」には、やはり感心します。観るほうも体力勝負ですが、作るほうもこれは相当に体力勝負であったような気がしてなりません。・・・主に頭の中での体力という意味ですけど。
 ひたすらに笑ってもらうことを目的とした、という点では間違いなく一つの到達点でしょう。けれども、三谷さんの引き出しはこれだけではないというあたり、やはりすごい方だと思います。


 それにしてもちょっと考えてしまうのは、笑いというのはある面では現実からの離脱というか逃避という面もあって、現実の嫌なことを一時忘れて楽しい時間を過ごすということを求める人もいるかと思うのですけど。というか、自分がそういうところもあって、今回お芝居のDVDを集中してみていたりするんですけど。ストーリーもテーマもない、ただひたすらに笑いに特化した作品というものは、本当に癒しになるのかという点です。
 なまじストーリーで感動したりテーマに考え込んだりする作品というものは、ある種のレールに観客を乗せて運んでくれます。そのお話に乗っかっているうちは、確かに現実を忘れられるのです。でもただひたすら笑うというのは・・・ただひたすら体力勝負しているだけのような。笑っている一方で、ふっと冷静になるというか、それはそれこれはこれ的、現実から離脱させてくれない悲しみがあるような。
 本当の笑いというものは、本当にシュールなものなのかもしれません。
 でも楽しいから・・・いいんです。現実は苦しいことも多いけど、それでも笑えるから、人間はきっと生きていけるのです。

 と、むりやり、「あとには何も残らないことを目指した」という三谷さんの意図に挑戦してみました。
 ・・・だって、喘息で呼吸困難おこしかけて、次の日には腰の筋肉痛に一日悩まされたのだから!
 これくらいの仕返しはしなくては。無駄に。

イーオシバイドットコム:http://www.e-oshibai.com/items/004.html


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これ

見てみることにしよう
by これ (2006-09-09 00:36) 

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