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「Mr.&Mrs.スミス」:夫婦は夫婦喧嘩をしないといけない [映画]

 とてもよかったです。個人的今年の「出会えてよかった映画No.1」に決定。私は夫婦喧嘩すると家出して映画のレイトショー見に行く趣味があるのですが、この映画がやっている限りはこれを見に行こうと思いました。DVDが出たら即購入。喧嘩するたびに夫婦で鑑賞。正座で。
 なぜならこの映画はいたって真っ当に、夫婦喧嘩というものを描いた映画だからなのです。

 夫婦喧嘩は犬も食わぬといいますがその通り。いつだって問題はシンプルであり、ガス抜きであり、意地の張り合いであり、非生産的であると分かっていても生活上やらないといけないものなのです。
 この映画はそんな夫婦喧嘩の本質を、コメディやアクションを散りばめながらきちんと正面から描いています。真面目なのか不真面目なのか。静と動。観客を振り回す映画でもあり、とっちらかっているようで中途半端なようでいて、だけど普遍的なことに深く踏み込んだ映画です。

 話の筋は、お互いプロの凄腕の殺し屋である二人が、そうとは知らずに運命的な恋に落ち互いの正体を隠したまま結婚するが、数年後倦怠期を迎えてなんか関係が上手くいかないという悩みを持っていたところに、とある事件絡みでお互いの正体を知ってしまう。この業界の掟では48時間以内に相手を殺さないといけない。そこで二人の壮絶な戦いが始まる・・・というもの。
 ちなみに予告編は非常に勿体をつけていて、映画の全貌を見せずに映像をうまく処理しています。そのあたりでストーリーを予想以上と取るか、期待していたものと何か違うと思うか、ちょっと分かれ目のような気もしました。


 基本はコメディです。それは忘れてはいけないと思います。けれどコメディこそが人間の本質を深く抉るのだということに気付かせてくれる作品でもあります。ただ既婚者じゃないとこの感じはちょっと分からないかもしれません。そういうテーマなので。
 これが独身の恋人同士の喧嘩では・・・やっぱり違うのです。夫婦でお互い隠し事をしているから、夫婦生活に無理が出てくる。それは彼らが殺し屋であるかとは全然別の部分で、ただ純粋に隠し事があるから、ぎくしゃくするのは当たり前というだけのこと。そして隠し事というのはいつかは発覚するものであり、その時彼らはたまたま殺し屋であったがゆえに、その喧嘩は銃やナイフや爆弾を使ったもの凄いものになるのです。

 夫婦はどこかでガス抜きをしないといけないのです。そうじゃないととても赤の他人と何年何十年も一緒には暮らせません。で、そのガス抜きがたまたま銃やナイフや爆弾(以下略)。
 夫婦は喧嘩をしてもすぐに仲直りは出来ません。そうするにはあまりに相手のことを知りすぎているからです。恋人達のように新しい一歩を踏み出してそれで解決とはいきません。同じところをぐるぐるまわりながら、それでもどこかに向かって進んでいかなければいけないのが夫婦です。それでもどこかに向かって行かなければならないあがきが、偶然銃やナイフや爆弾(略)。
 夫婦は相手に愛していると素直に言えません。素直に言えないのでさらに銃やナイフや爆弾(ry。

 そういうシチュエーションを上手く利用しています。まったくもってこれは正当なコメディであり、そして普遍性のある作品なのです。


 「ボーン・アイデンティティー」を撮った監督という事で、映像はとてもスタイリッシュです。音楽も上手く使われていて、静と動の対比が素晴らしい。「静と動」というと普通日本的な(東洋的な)ものに思われますが、アメリカ的「静と動」がこの映画ではしっかり表現されていました。
 それはダンスシーンであったり、お互いの正体に薄々気付いた二人がさりげない会話を交わしながらふっと相手に探りを入れるシーンであったり、殺し合いスタート寸前の場面であったりします。
 またお互い相手を殺そうとしながら、ついためらってしまったり、あるいは必要以上に過激になったり、揺れ動く心がそのまま表出していく、そんな静と動であったりします。静けさの影にリズムが流れ続けているのは、やはり西洋だからでしょうか。

 ロマンティックというにはコメディに触れすぎていますが、殺し合いを続けながらそれでもお互いに囁きかける「honey」や「sweetheart」はとてもセクシーです。またセクシーでありながら、切なく、切ないながらも洒落ていて笑えるのです。

 この映画を楽しむにはやはり「夫婦喧嘩」というもののどうしようもなさを知っていないといけないかもしれません。その一本筋を捕まえて観ないと、たくさん詰め込まれた他の要素(アクションやロマンスやサスペンス)はどれもそれなりに面白い題材ではあるものの、ごった煮の中途半端状態なので、頭がとっちらかります。
 そこだけ注意して鑑賞していただければ、この映画は上質のコメディです。
 夫婦は夫婦喧嘩をしないといけないんだなってことが、よーく分かる映画です。

公式サイト:http://www.mr-and-mrs-smith.com/


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