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「犬と月」:手をつなぐ [音楽]

犬と月

犬と月

  • アーティスト: Bonnie Pink, トーレ・ヨハンソン
  • 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
  • 発売日: 1998/10/21
  • メディア: CD

 まずジャケットを見て欲しくて、リンクを上に持ってきました。暖かな、いいジャケットだと思います。ついでに何よりタイトルがいい。単純で簡単な言葉の組み合わせで、しかしただそれだけで美しい。私自身、理想としている言葉の使い方です。
 音も素敵です。BONNIE PINKの高音と低音、両方の魅力をたっぷりと味わうことができます。高音の伸びやかな歌声、それがあっというまにドスを効かせた低音へと変化する。そしてまた、空へと舞い上がるように伸びていく。曲のタイトルどおり、天上の月と地上の犬の間を行ったり来たりするような、めまぐるしく微妙に揺れながら展開する歌声と歌詞が、一瞬たりとも飽きさせない。とても美しい曲です。ドラムの強くて華やかな、心の奥から響いてくるようなリズムがさらにそこに彩りを添えます。(ちなみに全歌詞はうたまっぷ.comで検索できます)。
 それを構成する要素のなにもかもが素晴らしい音楽。奇跡の名作とはこういうことを言うんだろうなと、勝手に思っております。

 BONNIE PINKの名曲です。なんでもアルバム用の曲として作ったものの、あまりにいい曲だったので収録を諦めてシングルカットにしたとか(その後、ベストアルバム「Bonnie´s Kitchen #1」に収録されています)。

 この歌のテーマは「手をつなぐ」こと。犬と月がどうやったら手をつなげるのかは、歌詞をごらんください。

  ともあれ、手をつなぐというのはただそれだけで素敵なテーマだと思います。
 人は人生の様々なシーンで手をつないで生きていきます。最初はたぶん、赤ん坊のころに親が差し伸べた指をしっかりと、加減を知らない渾身の力で握りしめることから。歩けるようになったら、今度は勝手にどこかに行ってしまわないように、いきなり駆けだして転んだりしないように、あるいはただ愛しくて、親は子供の手を引きます。もう少し成長したら、友達と手をつないで歩くでしょう。その手はきっと、ぶんぶん大きく振り回されているはずです。さらに成長したら、今度は好きな人と手をつなぐ。

 恋愛というものにおいて、恋人達は様々な段階、ハードルを越えていきますが、そのわりと初期にあるのが手をつなぐというハードルかと思っています。告白より後か先か、それだけでもなかなかに微妙です。気になっている人をデートに誘って、まず最初のデートから、一緒に歩く時にぐいと相手の手を引くことができる。こういう人は勇気ある人だと思います。二回目か三回目のデート、お互い相手の気持ちがなんとなく分かり始めた段階で、どちらからともなく手をつなぐ、それもまたいいものです。きちんと告白するまで、相手と手をつなげない人もいると思います。その人はたぶん優しくて少し臆病な人です。

 もっとずっと高尚な手のつなぎ方もあります。例えば映画「E.T」の有名な名場面。伸ばした指と指が触れ合う、あれもまた一つの手のつなぎ方でしょう。
 私はそのシーンの元となったといわれる、絵画ミケランジェロの「アダムの創造」も好きです。小学校の頃、キリスト教系(カトリック)の小学校に通っていたんですが、そこの礼拝堂の前にこれの複製画がかかっていて、当時からこの絵が好きでした。神がこのような存在であるのなら、なんと偉大で優しくて美しい方なんだろうと、その頃は無邪気に思っておりました(信じていたともいう)。ちなみに今は、このような画面を生み出したミケランジェロという人、そのイマジネーションこそが神の業だと思っています。

 手をつなぐことには様々な想いが込められています。万感の思いを込めて、また託して、人は誰かと手をつなぎます。その前段階として、人は手を差し伸べます。つなぐために、つなぎたいから、一生懸命に手を伸ばす。あるいはまたさりげなく、でもやっぱりそこには何らかの思いを込めて。
 それを一つの音楽の形にしてみせたのが、この「犬と月」という曲です。

  私はなんどもこの曲を聴きます。そしてその度に、手をつなぐことに関する無数の感情を想います。
 人と人(この場合は犬と月ですが・・・)が関わり合う、そこに存在するたくさんの気持ち、そして願いの存在を感じます。あるいはそれを無限と言い換えてもいいかもしれません。この曲の中には無限がある。やっぱり奇跡の音楽です。

 そうして今日も私は愛しい人と手をつなぎます。いつまでもそれが当たり前にならないようにと願いながら、いつかこれを失ってしまうことを恐れながら。それでも人生の最後には、誰かと手をつないでいたいと祈りながら。
 それを教えてくれたのが、「犬と月」という曲です。


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