「Just a Girl」:独りよがりじゃない孤独 [音楽]
BONNIE PINKの「Just a Girl」という曲が好きです。
この曲は同名のアルバムの一番最後に入っている曲で、"Don't worry(心配しないで)"と歌いかけるところから始まります。ちなみに全て英語歌詞ですが、CDの歌詞カードにはBONNIE PINK自身の手による対訳がついています。(以下、""で括ったのはその元歌詞および対訳からの引用です)。
内容は、別れの歌です。失恋の歌とも取れるし、大切な仕事のパートナーから別れてまた一人で旅立っていこうとしている女の子の歌にも聞こえます。歌の主体である「彼女」は、"心配しないで"と相手に歌いかけ、自分と別れることであなたはこういう気持ちになるでしょう、でも大丈夫だよ、笑っていてねと続きます。私はただの女の子("I'm just a girl")、たまたまここに立ち寄り、あなたに出会い、あなたを好きになってあなたを知りすぎた、ただの幸せな女の子、歌はそう続いていきます。
この歌は終始「あなた」に向かって歌いかけられているにもかかわらず、歌い手である「彼女」という人間性を強く感じずにはいられない曲です。彼女は自分のことを"ラッキーな女の子"だといい、また"今までで最も素敵な夢を見た女の子"とも、"ただ貪欲な女の子"とも続けていきます。そして最後に彼女は自分のことを、"ただのバカな女の子"と歌います。
寂しい曲です。私はこの歌に「彼女」の孤独を感じます。しかしそれは決して不快なものではありません。やさしいアコースティックギターがかき鳴らすメロディーに乗って、繰り返し歌われる"just a girl"、そこにはありのままの等身大の自分を見つめる女の子の姿があります。
そして別れを告げる相手に向かって自分の最大限の想いを歌いかけながら、ちっとも相手の負担になることなく、軽やかにそして爽やかに立ち去っていく彼女の姿が見えるのです。
孤独という言葉の意味を考えます。
独りぼっちになるのは寂しいことです。孤独である時、人は時として独りよがりになります。だって孤独なんですから、一人ぼっちなんですから。自分の思いにどこまでも耽溺して何が悪い、そんな考え方も出来ます。だけどそれって、とっても救われないことだと思うのです。
孤独であること、それは自分という人間と向き合うこと。孤独は決して孤独ではありません。人は孤独の中で、もう一人の自分と向き合っているのです。鏡にうつった向こう側に、あなたは何を語りかけますか? 鏡の向こうの自分の姿を、あなたはどんな風に見るでしょうか。鏡の向こうのあなたは、どんな人間ですか?
「Just a Girl」の女の子は、孤独の中できちんと等身大の自分の姿を見つめています。そしてまた、相手のことも、相手のことがまだ好きな自分のことも、目をそらさずにちゃんと見ています。孤独であること、それは決して独りよがりになることではないと、この歌は歌っています。
悲しい曲です。自分にとって大切なものを失うにあたって、独りよがりに耽溺できないのは、ある意味において悲しいことです。こんな時までもちゃんと自分という女の子でいなくちゃいけないだなんて、なんて悲しいことなんでしょう。
でもその悲しさは、何故か暖かな涙を連想させます。それは心を癒してくれる涙です。そしてまた、それを見た人に、辛さや苦しさといった負の感情ではなく、優しさや暖かさ、純粋なの意味での同情や共感をもたらしてくれる涙でもあります。負の連鎖ではなく、悲しみを転じて微笑みに変える力をもった、一人の女の子の姿がそこには浮かび上がるのです。
「Just a Girl」はそんな曲です。
BONNIE PINK オフィシャルサイト
ワーナーミュージック・ジャパン:BONNIE PINK / アルバム「Just a Girl」