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「マックス・ラーベ&パラスト・オーケストラ」:滑稽で、でも美しい [音楽]

 その幸せをなんと表現すればいいのだろう。マックス・ラーベとパラスト・オーケストラが作り出す空間は、この世の優しくて美しい音楽を教えてくれる。彼らはドイツの1920年代から30年代に歌われた、キャバレー音楽を復興させた。それは我々が通常ドイツと聞いて連想するような厳めしいものでも、逆にお高くとまったものでもない。「鶏に生まれたほうがマシだった」や「ぼくのゴリラには別荘がある」といったシニカルな笑いの歌から、「君は僕のコーヒーのクリーム」や「ファーストキスを恐れるな」といった甘い愛の歌まで。彼らの音楽は実に多彩である。
 CDで聴いても素晴らしいが、演奏風景はもっと素敵だ。マックス・ラーベは正装に身を包み、オペラ歌手としての教育を受けた喉を使って、真面目くさった顔でどんな歌でも軽やかに歌い上げる。そして間奏の時には後ろに下がり、グランドピアノによりかかって演奏者達にスポットライトを譲る。それを受け、支えるオーケストラの面々も傑作だ。一人がいくつもの楽器を受け持つ芸達者さを見せながら、時にはその喉まで披露して、音が持つ全ての魅力を伝えようとする。ラーベ氏とは対照的に、演奏するときも片時もじっとはせずに、顔を見合わせたり交互に立ち上がったり、実に賑やかな集団だ。やはりタキシードやドレスに身を包んだ彼らは、どこにでもいそうなドイツ人の顔をしているのに、どう見ても紳士淑女の集まりにしか見えない。服装と音楽のもつ上品さと確かな演奏技術が、舞台の上で輝きながら多才な楽士たちを包んでいる。
 古き良き幸福な時間、けれどもう失われた時を現代に再現する彼らは、私達につかの間の夢を見せてくれる。微笑みながら笑いながら、指の間からこぼれていく砂を追うように、何故私は悲しいのだろうと問いながら。その幸せは言うならば恋だ。滑稽で、でも美しい。
 彼らの曲にユーモアと恋の歌が多いのも、きっとそんな理由だろう。

(800字批評シリーズ:800字)

  パンフレットより。
 「この写真でいいの?」と(たぶん)聞かれながら(ドイツ語だったので)、ゲットしてきたサイン。

 参照:「芸術のるつぼ……マックス・ラーベ試論」


ベスト・オブ・マックス・ラーベ&パラスト・オーケストラ

ベスト・オブ・マックス・ラーベ&パラスト・オーケストラ

  • アーティスト: マックス・ラーベ&パラスト・オーケストラ
  • 出版社/メーカー: BMG JAPAN
  • 発売日: 2007/05/09
  • メディア: CD

ルンバ天国

ルンバ天国

  • アーティスト: マックス・ラーベ&パラスト・オーケストラ
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2007/05/09
  • メディア: CD


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