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「ハンニバル・ライジング」:怪物はいつから怪物なのか [映画]

 人は圧倒的な存在に憧れる。神、悪魔、天使、そして天才、あるいは殺人鬼。
 「羊たちの沈黙」で圧倒的な存在を見せつけた、稀代のサイコ・キラー、レクター博士。その彼の幼少期から青年期の生い立ちをつづったのが、この「ハンニバル・ライジング」である。今回初めて映画化にあたり、原作者のトマス・ハリスが脚本を担当しているため、ほぼ原作に忠実な映像化となっている。
 前作「ハンニバル」でも博士の生い立ち、その原点は少し語られていたが、トマス・ハリスが本格的にハンニバル・レクターの生い立ちを書くとなったとき、幾人かのファンは懸念を抱いた。「あの天才殺人鬼の源が、単に幼少期のトラウマにあるとなったら……」
 人は殺人鬼の源を知りたいと願う。だが同時に人は、彼らが自分たちとは根本的に違う存在であって欲しいと願う。そのエゴイスティックさこそ、まさにレクター博士にとっては舌なめずりしたくなるような、人間の醜悪さだろう。
 さて結論から言えば、その心配は杞憂である。確かにハンニバル・レクターには強烈な幼少期の体験が存在し、また青年期においても彼に多大な影響を与えた人物は存在した。だがそれでも、スクリーン上に立つ若きレクターが醸し出す存在感。一目見ただけで、「これはただの人ではない」、もっと言えば「危険だ、ヤバイ」と感じさせる存在感。知性なき暴虐ではなく、むしろ透きとおる才知に支えられた残虐であるからこそ、怖いという背筋の震え。そう、あの「羊たちの沈黙」で初めてレクター博士に出会った時感じたものが、「ハンニバル・ライジング」に描かれる若き日のレクターにも存在する。
 怪物はいつから怪物なのだろうか。レクターにも両親がいて、愛する妹がいた。だがそれでもなお、彼は最初から特別だった。世界から切り離されたところにある存在。ゆえに人は彼に恐怖し、羨望する。
 決して彼のようではない自分のことを、幸せだと感じながら。

(800字批評シリーズ:798字)

公式サイト:http://www.hannibal-rising.jp/


ハンニバル・ライジング 上巻

ハンニバル・ライジング 上巻

  • 作者: トマス・ハリス
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 文庫
 
ハンニバル・ライジング 下巻

ハンニバル・ライジング 下巻

  • 作者: トマス・ハリス
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 文庫


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