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「サムライ・レンズマン」:本格SF+男ツンデレなサムライ [小説]

 これは本格的SFの系譜に連なるものであり、同時に文章の読みやすさやある種類型的なキャラクターや、いわゆる「萌え」なども盛り込んだライトノベル(ジュブナイル)小説でもあるという、そういう本です。
 「星界の紋章」にカテゴリとしては近いわけですが、あれは純国産であったのに対し、こちらは「レンズマン」というアイデア、およびシリーズは1937年(!)に書かれた、E.E,スミスの「レンズマンシリーズ」から持ってきています。
 そしてこの「サムライ・レンズマン」は、原作者(はもう亡くなっていますので遺族)に許可を受けた、正式な第三者による続編(外伝)なのです。しかも著者は知る人ぞ知る、かの「ブラックロッド」の古橋秀之。・・・といっても知らない人の方が多いと思いますし、それで普通、アナタはマトモなんですが、ともあれすごい才能ある作家さんなんですよ。大好きです。

 私はまだ本家レンズマンシリーズを読んだことはありません。これから読もうと思っています。しかし、この外伝からでもその魅力は十分に伝わってきました。
 銀河パトロール隊vsボスコーンと呼ばれる宇宙海賊という対立構造は、確かにちょっと古典的です。しかしともあれ、悪であるボスコーンと戦うために、人類の遥か先を行く超文明アリシア人によって与えられた「レンズ」。その装着者には他者の心を読んだり、他者と瞬時に思考で会話を交わすことが出来るテレパス能力が授かります。これはまた、授与された人間にしか使えず、他人が下手に触ろうとすると即死してしまうという、強力な身分証明証でもあるわけですが、これを持って銀河を飛び回りボスコーンと戦うのが「レンズマン」です。

 レンズマンには実に様々な種族がいます。自動的にテレパス能力を与えられるということは、言語の壁、というか意思疎通の壁そのものを乗り越えて、非人類な知的種族ともその交流の窓口を開きました。よってレンズマンには非人類もまた多いです。異星人というだけじゃなくて、地球生まれででも人じゃないっていう、そんな生物もレンズマンとして登場したりもしますが、それが何なのかは驚きのためのお楽しみに取っておきましょう。私は彼が大好きです。登場した時はかなりウケました。
 レンズマンは誇り高く、決して諦めず、またくじけません。人々の平和な暮らしを守るために命を散らすことを恐れず、常に利他的です。ちょっとジェダイの騎士を連想したりもします。こっちのほうが歴史的には先なわけですけど。


 さて、そんなレンズマンに、古橋秀之は「サムライ」という要素をぶっこみました。日系アルタイル人で白皙の肌を持ち、盲目ながら肉体感覚(触覚)だけで周囲の状況を察知し、もちろん武器は刀。
 戦う前には左右の拳を床に着けて「ドウモ」と挨拶し、何かあるとすぐ「ハラキリ」するといい、明鏡止水という名の下に自分に向けられた敵意および攻撃を、そっくりそのまま跳ね返すという技なのか超能力なのかも使い、宇宙船の中で安住する住処は金色の寺院な茶室(いわく、「キンカクジを模したヤカタブネ」だそーで)、そんなサムライ・・・なんか微妙にあちこち間違いも入りつつある気がしますが、それがフルハシ(古橋秀之)です。
 ヤツは折伏機動隊にガン・ボーズ(坊主)という字をあて、釈迦数百体分の仏舎利でもって敵を攻撃とか、そんなことを平然と書くオトコ。つまり元からアレやアレやアレがぶっ飛んでいる方なのです。素敵です。

 そのようなアメリカナイズしてみせた日本という独自要素を華麗に盛り込みつつ、本家および正当続編のキャラクターも多数、それもごく自然に登場させてみせて、物語は次から次へと魅力的な異種族を披露しつつ、対人アクションから艦隊決戦まで盛り込んで熱く突っ走ります。

 また、このクザクというキャラが実に面白い。もう一人のこの物語の主人公は、キャット・モーガン(通称キャット)というイキのいいお姉さんなんですが、2人の間には微妙な空気もちょっと流れていたりします。しかしクザクはあくまで無表情を貫き、それでいながらキャットのためにはいつでもハラキリするといい、彼女のために平然と死のうとしてみせる。・・・クザクはつまり、今流行りのツンデレなわけです。
 ここで一般の良識ある普通人の方のために、「ツンデレ」の解説を入れておこうかと思いますが、ツンデレとはツンツンデレデレの略です。つまり普通はとてもツンとして誇り高く、人間的弱さなど微塵も見せないのですが、好きな人の前では急にしおらしくなって結果的にデレデレしてしまうという、そういう萌えキャラです。さらに詳しく知りたい方ははてなダイアリーでもご覧下さい。

 私は読みながら思いましたね、おお、クザクは男ツンデレと。そして大変に好きになった(萌えた)わけです。そんな萌え方(というか読み方)しているのは私くらいだ・・・とは思いたくない。というわけで、これから読むかもしれない皆さんにはあらかじめ洗脳しておきたいと思います。クザクは男ツンデレです。
 そのような洗脳に何の意味や意義があるのかは、あんまり深く考えないで下さい。

 ともあれ、SFとしてもアクションものとしても、テレパスものとしても、異文化ものとしても、ついでに微妙な薄い恋愛ものとしても楽しめる、非常に内容の濃い(むしろ濃すぎる)本なのです。それでいながらライトノベルですから、非常に読みやすい。
 気軽にディープな世界を堪能したい方にお薦めです。気軽にディープってなんやねんとか、そういうことはあまり深く考えないで下さい。読めば面白さは分かるんですから!

サムライ・レンズマン

サムライ・レンズマン

  • 作者: 古橋 秀之
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2001/12
  • メディア: 文庫

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