SSブログ

「ブラック・ラグーン」4巻:三角形の力学 [漫画]

 この漫画は元日本の商社マンだった青年が、ふとしたことから会社に見捨てられて捨て駒状態で死地に取り残され、開き直ってその死地で生きていこうと決意するところで始まります。そして意外と適応性あることも発見されたりしつつ、ラグーン商会という海運輸送(主に非合法)をやっている小さなグループに所属して、世の中の汚い部分を沢山見ていきながら、でも何故か汚れきらずにその闇の世界を渡っていくという話でもあります。
 本名の緑郎(ろくろう)をもじってロックと呼ばれる彼は、汚れきらないがゆえに、闇の世界においてもなぜか傍観者であるという属性を獲得しています。その彼の視点から描き出される、硝煙と血と死の匂いが立ちこめる世界。

 「デスノート」や「ガンスリンガー・ガール」もそうでしたが、この漫画もやはり人がどんどん死んでいきます。魅力的な登場人物であろうとも、関係ありません。まあ前述の二作品に比べれば、主要な人物は死ぬというよりもただ退場することが多く、そういう点では安心感があるのですが、ともあれ疾走感はなかなかのものです。最近の一つの流れではあるのかなと、なんとなく思います。
 でもそれだけ殺伐としていながら、全体を覆うのは悲しみや絶望ではなく、むしろ乾いた清々しさというか、開き直りというか、そんな奇妙な明るさであるところも共通しています。
 それを支えているのは「ブラックラグーン」の場合、強い女性たちですね。強くそして爽やかに・・・いや、それは語弊があるな、爽やかというか支離滅裂に画面の中で暴れ回る彼女たち。作者はこういう女性がとことん好きなんだなという愛も感じるくらいです。
 ロックの相棒ともなる、ほとんど半ケツ状態のショートパンツを穿いた二丁拳銃(トゥーハンド)・レヴィ、アフガン帰りのロシア人大尉(カピターン)・バラライカ、広げたスカートの中から手榴弾が転がり出る暴力メイド・ロベルタ、山刀を操るスリット深すぎのチャイナ服な「ですだよ」姉ちゃん。実に華やかです。・・・華やかというとなんか語弊が。いや、血の花が咲くっていう意味で華やかなんだと取ってもらえれば。

 さて、この第4巻では舞台を日本に移し、ロックが故郷に帰ってきます。とはいえ彼はまだ、家族と対面する勇気が持てないでいますが。普段は女の子というより少年といったほうが相応しいような姿ばかりしている相棒のレヴィも、珍しいスカート姿なんてものを披露しつつ、英語の通じない異国で戸惑い&苛立ちまくり、でもなぜかそれが可愛いという意外な一面も見せてくれます。その一方で、平和な国でむしろ冷酷さを全面的にあらわにするバラライカ。・・・彼女は平和というものを憎んでいるのかなと、ちょっと考えてしまう程です。
 作者の博識、もしくは綿密な下調べはこの巻でも明らかで、今回はヤクザが題材なのですが、彼らの言葉遣いや考え方など、非常にリアリティを持って描いていかれます。
 これまでも銃器や軍事や、各国のマフィアたちそれぞれの考え方など、きちんと描き分けてみせてきた、作者らしいこだわりです。


 「ブラックラグーン」に限らず、前述の二作品などもそうですが、このように深いこだわりをもって描かれ、また容赦なく人が死んでいくという物語は、常に先鋭化して追い詰められていく危険をはらんでいます。
 人が死ぬってことはその分新しい登場人物が必要ってことですし、読者側にしても思い入れのある人物が次々と殺されて、それでも付いていこうと思うだけの魅力が常に提示されていなければ乗ってこない。しかしそのような速い回転と深いこだわりというのはなかなか両立し難いものです。
 単純に、時間の振り分けで考えても分かると思うのですが、こだわればこだわるだけ時間を食いますが、そのこだわった結果のキャラやシチュエーション造形も次々捨てていかなくてはならないんですから。

 作者も追い詰められがちですが、物語そのものも、「それでこの悲劇の行き着く先は?」的な期待、言い換えれば追い詰められ方をされていくものです。それをどう回避するか。

 「ブラックラグーン」においては、それは常に対立関係を三角形にするということで、なされているように思います。物語は主人公が所属するラグーン商会vs敵、という構図では必ずしもない。ラグーン商会に仕事を依頼してくる元が、そもそも味方とは限らなかったりしますし、また敵も一勢力だけとは限らなかったり、あるいは話の途中で内部分裂を起こしたり。つまりは目の前の敵と味方以外の第三勢力が常に存在するのです。
 三角形というのは、誰かが一人勝ちすることのない、膠着状態を作り出すにはいい形です。例えば、1つの勢力だけが力を付けようとすると、他の2つが一時的に手を結んでそれに対抗したり。また、2つの間で戦いがあってどちらかが勝利したとしても、あと1つが残っているわけですから、まだ話は続きます。その間にさらにもう1つ追加すれば、また三角形の構図が作れる。
 「ブラックラグーン」においても、それらの手法はよく用いられているようです。だからこの話は、スピード感をもって転がりつつも、行き詰まりを感じることなく、リズム良く転がり続けているのだと思います。

 「デスノート」はその点、一対一の対立関係にこだわりすぎた結果、第三勢力を上手く使い切れませんでしたし、「ガンスリンガー・ガール」は三角形以前にまず敵味方が不明瞭であるという点で、やはりこの方法論は使えていません。
 もちろんそれはただの一要素に過ぎず、総合的に見てどの作品が優れているとかじゃないんですが。ただ、「こういう特長がある」と言った方が正確ですね。

 ともあれ、三角形の力関係は燃えます。燃えると同時に、どこかで常にバランスが取れているという安心感もあります。今はどういう風に三角なんだろうと、勢力図を頭の中で広げる楽しみもあります。・・・それは私だけかもしれませんが。でもやってみると結構面白いですよと、開き直って薦めつつ。
 ちなみに私は張さんが好きです。あの人も今は比較的傍観者の立場にいますが、いつかきっとこの三角の力学の中に直接足を踏み入れてくれるのだろうと、期待して待っています。

作者ご本人のサイト:VIOLENT DOGS DIVISION

ブラック・ラグーン 4 (4)

ブラック・ラグーン 4 (4)

  • 作者: 広江 礼威
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2005/07/19
  • メディア: コミック
 

nice!(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:マンガ・アニメ(旧テーマ)

nice! 2

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。