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「トワイライト」:危険なものばかりを愛する [小説]

 最初は大して期待していませんでした。買ってみようと思ったのは、たまたま大学から教育支援金の一部が図書カードの形で返ってきたからです。あとはまあ、カンです。それで文庫になっている分、8冊を一気買いしました。
 しかし自分のカンもなかなか捨てたものではないと、もう人生で何度目かの自己満足に浸ることとなりました。

 基本は吸血鬼と人間の女の子のラブストーリーです。吸血鬼もの、吸血鬼と人間の恋愛もの、共にかなり使い古されたテーマですが、この作品のずば抜けたところは、とても完成度が高いところです。
 例えば、「もしドラキュラがヘルシング教授に勝っていたら?」の設定で、虚実おりまぜた歴史上の人物の半分以上を吸血鬼にし、一大叙事詩を描いて見せた、キム・ニューマンの「ドラキュラ紀元」のような尖った部分もはっとするような目新しさも、この作品にはありません。
 しかし伏線をきっちりと張り、登場人物達の心情を脇役に至るまで細かく描写し、読者を飽きさせずに次から次へとドラマチックな展開を繰り広げていく部分において、この作品は卓越しています。
 ただし基本が恋愛ものだということははっきりしていますので、恋愛映画に興味のない人が恋愛映画を観てもひたすら退屈なように、恋愛ものを求めていない人がこの本を読んでも、面白さは分からないでしょう。

 実際、この作品はかなり少女マンガっぽいです。
 主人公の女の子ベラは、両親が離婚し、母親の再婚に伴って父親の方と暮らすために街にやってきます。炊事洗濯も完璧で成績も良く、理性的で主体的です。自分の周りを取り巻く謎も、自らどんどん解決していく能力があります。一方で吸血鬼に対して「それは大したことじゃない」と言ってしまう博愛主義と勇気と無謀さを持ち合わせ、運動音痴であり、恋愛に対しては非常に自分に自信がなくて臆病です。
 恋愛マンガの主人公には割と居るパターンなのですが、小説では意外と珍しく、主人公がただただロマンチックで守られ、流されるだけではなく、強くて賢いという部分が私はとても気に入りました。
 でも、劇中でもなんでも言われているのですが、彼女は危険を引きつける存在であり、そればかりか自ら危険なものばかりを愛してしまう子なのです。

 吸血鬼だろうが狼人間だろうが、ふとしたことで理性を失って自分を殺してしまうかもしれない存在を、「そんなの大したことじゃない」と言ってよき友人、あるいは恋人にしようとする気持ち。それはどこから湧いてくるのでしょう。
 博愛主義なのでしょうか。それとも、これが若さというものなのでしょうか。彼女はちゃんと、自分が死んだら父親も母親も悲しむと分かっている、どちらかというと「両親よりもしっかりした子供」タイプの娘なのですけれど。

 彼女はたぶん……とても自由なのです。それは確かです。肉体ではなく、精神が自由で柔らかい。若さゆえの束縛のなさと、賢さゆえの世界の広さ、その両方が彼女の中には宿っているのでしょう。
 そう考えると、彼女がいずれは永遠の若さをもつ吸血鬼になることを選ぼうとしていることも、自然に思えます。吸血鬼もまた、永遠の若さと悠久の時を生きる賢さを持つ生き物ですから。
 ただそれは孤独なことでもあります。世の中の大半の人はそうではありませんから。実際にベラは、ちょっと孤立したところのある女子高生です。……だから危険を愛する。彼女にとって危険とは、自分を必要としてくれる、受け入れてくれる存在なのでしょう。

 危険ばかりを愛すること。それを貴方は危ういと思いますか。羨ましいと思いますか。何故だろうと思いますか。悲しいことだと思いますか。……素晴らしいことだと、思えるでしょうか。
 何が正しいのかは、たぶん問題ではありません。これは単に生き方の問題です。安全な生か危険な生か、人間の命か吸血鬼の命か。ただ人はその間で揺れ動きます。
 ベラのように軽々と境界線を飛び越えていく人間は、やっぱり珍しい。その先に、受け止めてくれる優しくそして危険な腕があったことは、彼女にとって人生で一番の幸運だったのでしょう。
 ……例えそれが、人としての彼女の命を終わらせることであっても。


トワイライト 上 (ヴィレッジブックス)

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  • 発売日: 2008/04/19
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トワイライト 下 (ヴィレッジブックス)

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