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「シン・シティ」:フェティッシュと原始性 [映画]

 R15指定なこの映画、見ていてそりゃR15だよねと深く納得してしまいました。エログロ映画です。画面はほとんどモノトーンで構成され、時々赤や黄色といった色が印象深く浮き上がるという趣向なのですが、血は真っ白にもかかわらずそのドバドバ感、溢れ出しっぷり、こりゃ血だわと却って生々しさをかき立てられました。
 話は大きく3つに分かれたオムニバス構成です。それぞれの話は直接的にはつながっていないものの、登場人物たちがふとすれ違ったり、それぞれの話の敵役につながりがあったり、また時系列が前後していたりと(後の話だからといって時間的に後とは限らない)いう部分で構成を楽しめます。
 原作はアメコミだそうですが、私は井上三太氏の漫画を思い出したりもしました。特に「BORN 2 DIE」を。
 全体としてはスタイリッシュなのでしょう。というか、これをスタイリッシュである、カッコイイと見なすことが出来ない人には、この映画はまったく楽しめない、そういう映画だと思います。しかしその分、好きな人にはとことんツボにはまるタイプの映画でもあるのだと思います。

 贅沢な俳優陣が多数出演していますが、私はイライジャ・ウッドとベニチオ・デル・トロが印象に残りました。どちらも敵役でかなり強烈なキャラクターで(もっともこの映画に強烈でないキャラクターなどいませんが)、やられかたもかなり強烈だったりするのです。というか、かなりヒドイ扱われ方をします。普通の俳優さんはこんなの嫌がるんじゃないかというような。
 でも、彼らはそれを演じることをひどく楽しんでいるように見えたんですよ。それこそまったく映画の方向性は違いますが、オーシャンズ11に出演している俳優達のように。彼らはこの映画に出演していることを心底楽しんでいる、そう感じました。そして俳優達が楽しんで演じているからこそ、このアクの強い毒々しさに満ちたこの映画は、奇妙なポップさやお祭り感をおびている、そのようにも。

 そういえば女優陣の脱ぎっぷりもこの映画の特徴の一つに数えられると思います。主要な女優陣で脱いでいない人のほうが珍しいくらいですし、「女たちの街」という街娼が集う場所では様々にフェティッシュな装いに身を包んだ女性達が、その姿でサブマシンガンを振り回したりします。やっぱり好きな人にはたまらない世界なわけです。
 ただし、普通の人にはどーだろーという面もあります。これだけ脱いでいるのにちっともエロを楽しめない、そう感じてしまう方もいらっしゃるのではないかと余計な心配をしたりもしました。なんにせよ、人を選ぶ映画なのです。どちらかというと自分はマニアだ変態だと思っている人向けです、はっきり言って。


 さて、大きく分けて三つのストーリーで構成されていると書きましたが、どれも主人公とヒロインの立ち位置は似ています。主人公はあまり容姿に優れているわけではないが、肉体的にも精神的にも非常にタフな男である。ヒロインはそんな彼らにとってそれぞれ女神のような存在である。彼らは彼女らを守るために戦い、そして自らをも犠牲にする。少しずつトーンを変えて繰り返される同じ構造の物語は、奇妙なトランス感をおびていきます。
 やっぱりこれはフェチ映画だなと思いもしました。主人公たちと対応する女性たちとの関係性は「レオン」にも似ています。・・・真っ当なというか、健康な恋愛感情ではないのです。すごくピュアではあるのだけれど、絶対に健全ではない。このいかがわしさが、たまらないのです。

 それにしても、これだけスタイリッシュである種SF的であるにも関わらず、「男は女を守るために死ぬのだ」という古典的な観念が繰り返されるのは、少し意外な気もします。
 けれども秩序が崩壊した街シン・シティにおいて、人間社会というものはむしろ原始へと後退しているのかもしれず、そうなると生殖の核である女性を種をまいたらあとは使い捨てな男性が守るという構図はむしろ当然なのかもしれません。
 つまりこの映画はSF的な部分もあるけれど、それは未来方向に向けてSFなのではなく、過去に向けてSFなのでしょう。SF作品というのは必ずしも科学の発展を描くものではなく、むしろ科学技術が失われてしまった世界を考察するのもそうであったりしますから。
 これは社会的に未来ではなく原始への回帰を指向した作品と見ることもできるかと思います。

 個人的にはこの映画はとても楽しめました。主人公の独白(モノローグ)が多用されている点だけはややかったるく感じましたが、映像には存分に酔えましたし、生理的嫌悪感の一方で惹き付けられずにはいられないエログロも楽しむことが出来ました。芸術性や人を選ぶフェチ性と、エンタテイメントをぎりぎりの線で融合させた佳作だと思います。
 これは決して地上波でテレビ放映されるたぐいの映画ではありません。見る側が自ら選び金を払って見るからこそ許される表現、そいつが存分に展開されています。映画館の暗闇の中に自ら足を踏み入れて、こんな映画を観る。私はそのことにたまらないフェティッシュな興奮を感じるのです。

公式サイト:http://www.sincity.jp/index2.html


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