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「ローマ人の物語」:ストイック [小説]

 風邪気味で寝込んでいました。気持ち悪ー。頭もまわらなくて、寝て本ばかり読んでいたんですけど、文字は読んでいるのに内容が全然頭に入っていなくて、数行戻っては読み直すことばかりしていました。早くもぼけたかと心配です。同じ箇所を3回もぐるぐる読むなどという挙げ句に至っては、自分は牛かと悲しくなります。何故牛(反芻かと)。

 それで読んでいたのが塩野七生「ローマ人の物語」なんですが、私はこの作者さんが好きで文庫になっている作品はほぼすべて読みました。「ローマ人」も題材そのものには今まで大して興味はなかったのですが、同じ作者の同じような民族(国家)盛衰記「海の都の物語」も好きだったし、きっと読み始めたら面白いのだろうとは確信していたのですよ。
 あとの問題はこれが単行本で12巻、文庫は単純計算でその倍以上になるという長さ(もっとも刊行中なのですぐには揃いませんが)。読むことそのものはいいんですが、お金と収納場所の問題がー。
 そんなわけで「いつか読もう」と(心の中で)売約済みの札だけ下げておいてあったシリーズです。同じ扱いをしているものに司馬遼太郎先生の一連の著作もあります。

 それについに手を出した理由は・・・まあ特にきっかけがあったわけでもないんですが、ふと手に取ったら止められなくなって。表紙の装丁に、その巻ごとに扱われている時代・題材に関連した金貨・銀貨が用いられているのです。そしてそのコインの表裏の意匠とその意味と、なぜ表紙に選んだのかの理由が作者によって簡潔に書かれています。その短い文章を読んだだけで、購読欲が止められなくなりました。

 塩野先生の文章はストイックな部分が好きです。といっても感情を感じさせないとか、絶対的に中立の視点を貫いているとかいうことではなくて。むしろ読んでいると、ある人物については「ああ、こういう人が好きなんだな」とか「高く評価しているんだな」とか、また別の事象についてもいくつもの先達を引用して複数の見方を示しつつも、どうしても弁護せずにはいられないらしい衝動が見えたり、「歴史的事実を知る」というよりも、「塩野七生が語る歴史を聞く」といった感覚がするのです。まあこれは私が塩野氏の著作を多数読んでいるから、傾向が分かるのだという理由も大きいと思うのですが。
 そして私は塩野氏の語り口が好きなのです。最初に年齢を知った時驚いたくらい、もう高齢の方ですが(1937年生まれ)、語り口が現代風で若々しく、また女性として確かに男性作家とは毛色が違う柔らかさを感じたりもするのですが、他の女性歴史小説家に感じる少し陰に隠れる感じというか、歴史的事実を語ることで自らの意見を語ろうとするような、手段と目的の混合(混同ではない)を感じないのです(別に男女は関係ないかも)。
 他にも作家が自意見を語る時には、読み手の同意を求めたり、あるいは同意を得られるように誘導したり(説得できる材料を呈示するとは別の部分で)、読み手や社会におもねるような感じを受けることもあるんですが、塩野氏にはそういった部分も少ない気がします。
 ただぽーんと自分の意見を放り出す。同意されないならそれでもいいと、卑屈なわけでも傲慢なわけでもなく、ただ淡々と思っているような、そういうストイックさです。

ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上)    新潮文庫

ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) 新潮文庫

  • 作者: 塩野 七生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/05
  • メディア: 文庫

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